夜の20時過ぎ、
仕事へ向かうバスに乗ると、
車内が何やら騒がしい。
「また警察呼ぶなら呼べよ!」
ホームレスのような、
髪の毛ボサボサの60代くらいの男が叫んだ。
乗客が言う。
「運転手さん!早くしてよ!
この前もこれで30~40分やったんだから!」
この男、騒動はこれが初めてじゃないらしい。
運転手は、無線で会社に問い合わせた。
そして無線のボリュームを上げたのか、
バスの最後尾まで届くほどの音の大きさで、
無線の向こうと会話した。
運転手「乗車を拒否していいんですね」
会社「拒否してください」
運転手「了解しました」
運転手「・・・ということです。
降りていただけますか?」
男「だから邪魔にはならねぇだろうよ!」
運転手「運行を中断します」
バスのエンジンが止められた。
原因は、男がバスに持ち込んだ荷物の量。
大きな旅行用バッグを
3個持ち込んだのが規定以上だったらしい。
大人1人の運賃しか払ってない様子で、
それがもめてる原因っぽい。
男「通路なら邪魔にならねぇし、いいじゃねぇか」
再開するかどうかは、
男と運転手のバトル次第。
とはいえ、過去にもこのバトルを見た乗客は、
長期戦にもつれこむことを知っている。
1人、また1人と、降り始めた。
電車に切り替える人、
次のバスを待ち始める人、
バスの中は徐々に人が減っていく。
男は、それでも居座った。
運転手は、再び無線で指示を仰ぎ、
男に「バスを降りてください」
「会社からの指示ですから」と告げた。
男は言った。
「てめぇ自身で判断しろよ!」
やだかっこいい。
いや違う、ただのワガママだ。
本来の発車時刻から5~6分後、
もうすぐ次のバスが来そうだったので、
僕もバスを降りた。
次のバスにそのまま乗れるよう、
運転手はちっちゃな紙をくれた。
強風吹き荒れる真冬のクソ寒いバス停で、
次のバスを待った。
しばらくして、
自転車に乗った警察官がやってきた。
男は少しの抵抗のあと、
納得がいかない表情でバスを降りてきた。
警察に聴取を受ける男。
やりとりは聞こえないけれど、
まだ納得がいかない表情。
そうこうするうち、次のバスが到着。
寒空に放り出された僕ら乗客たちは、
怒りを感じる足取りの速さで、
運行休止中のバスの向こうに停まった、
バスに乗り込んだ。
そんな、今日の夜の出来事。
前のバスの発車から10分後、
まだ平行線をたどる男と警察を横目に、
バスは発車した。